梅雨の時期特有の、じっとりとした湿気がまとわりつく日のことだった。
僕の右足は、太ももから足首の少し上まで、頑丈な白いギプスで完全に固められていた。趣味の草野球で派手にスライディングを失敗し、複雑骨折という大不名誉な怪我を負ってから2週間。松葉杖の生活には少し慣れてきたものの、どうしても自分一人では越えられない高い壁があった。
それが「入浴」だった。
ギプスを濡らしてはいけないという絶対の制約がある以上、浴槽に浸かるなんて夢のまた夢。シャワーを浴びるだけでも、右足を大きなビニール袋で包み、防水テープを何重にも巻き、さらに浴室内に置いた介護用の椅子にバランスを取りながら座るという、大がかりな準備が必要になる。最初の数回は母親に手伝ってもらったけれど、母がパートの夜勤でいない今夜、家にいるのは高校2年生の妹、結衣(ゆい)だけだった。
「……なぁ、結衣。ちょっと頼みがあるんだけど」
自分の部屋のドアを恐る恐る開けて声をかけると、スマホを弄っていた結衣は、あからさまに面倒くさそうな顔をして振り向いた。
「何? お兄ちゃん。ゲームのコントローラーでも落とした?」
「いや、そうじゃなくて……。その、お風呂。母さん今日いないだろ? ビニール巻くのだけでいいから、手伝ってくれない?」
結衣は一瞬、嫌そうな表情を浮かべたけれど、僕の痛々しいギプスに目をやると、ふぅ、と小さく溜息をついた。
「しょうがないなぁ。怪我人はこれだから困る。はいはい、手伝えばいいんでしょ」
ぶっきらぼうな口調だったけれど、手際よくゴミ袋と養生テープをリビングから持ってきてくれた。普段は生意気なことばかり言う妹だけれど、こういう時には案外優しい。それが、僕のささやかな安心だった――この後に待ち受ける、人生最大の試練を知るまでは。
脱衣所の狭い空間で、僕は松葉杖にすがりながら、なんとか服を脱いでいった。
Tシャツを脱ぎ、ハーフパンツを下ろす。ここまではいい。問題は、最後のボクサーパンツだ。
「結衣、一回、後ろ向いてて」
「何言ってんの、今更。大体、ビニール巻くの太ももの上の方までだよ? パンツ穿いたままだとテープ貼れないじゃん。早く脱ぎなよ、濡れちゃうよ」
結衣は脱衣所の壁に背中を預け、腕を組んだまま、冷ややかな視線を僕に向けてきた。
彼女の言う通りだった。ギプスの境目は太もものかなり上部にあり、そこに防水テープを密着させるには、下着を穿いていると邪魔になる。家族とはいえ、17歳の妹の前で完全に全裸になるのは、強烈な羞恥心が伴った。でも、背に腹は変えられない。僕は覚悟を決めて、最後の布地をゆっくりと引きずり下ろした。
「……よし。頼む」
僕は全裸のまま、片足でふらつきながら浴室の椅子に腰掛け、右足を前方に投げ出した。
結衣は「失礼しますよー」と棒読みの声をあげながら、僕の正面にしゃがみ込んだ。
カサカサ、とビニール袋が擦れる音が、狭い浴室内に響く。
結衣の頭頂部が、僕の股間のすぐ目の前にある。彼女は真剣な表情で、僕の太ももにゴミ袋を被せ、防水テープを引き出した。
ジジジジッ、とテープが剥がれる鋭い音が心臓に突き刺さる。
「ちょっと、動かないでね。ここから水が入ったら台無しだから」
結衣の指先が、僕の太ももの内側の、かなり際どい皮膚に触れた。女性の、それも妹の柔らかくて少し冷たい指先が、無防備な裸の肌に直接触れる。その感触が、僕の脳の防衛本能を狂わせるには十分すぎた。
(待て、落ち着け。相手は妹だ。ただの作業だ……)
心の中で必死に念仏のように繰り返すけれど、身体は正直だった。2週間もの間、怪我の痛みと不自由さで完全に抑圧されていた僕の男としての本能が、この異常な至近距離での皮膚感覚によって、急激に目を覚ましてしまったのだ。
ドクン、と下半身の奥で熱い血が巡る感覚がした。
僕の意思とは100%無関係に、股間のシンボルが、ゆっくりと形を変え始めていく。
(やばい、やばいやばいやばい……!)
冷や汗が全身から噴き出した。しかし、抑えようとすればするほど、意識がそこに集中してしまう。
それは、完全な直立ではなかった。全開の興奮ではなく、恥ずかしさと、あってはならない背徳感、そして純粋な生理現象が混ざり合った結果、前方に向けて斜め「半分の角度」ほどの、中途半端で生々しい硬さで、自己主張を始めてしまったのだ。
狭い浴室の、明るい蛍光灯の下。隠すものは何もない。
結衣がテープをぐるりと一周巻き、次の位置を確認するためにふと顔を上げた。
その瞬間、彼女の視線が、僕の腰元で斜めに持ち上がっている「それ」と、完全に正面からぶつかった。
時間が止まった。
シャワーの蛇口から、ポタ、ポタ、と水滴が落ちる音だけが妙に大きく聞こえる。
結衣の動きが、完全にフリーズした。
彼女の大きな目が、僕の半分の角度で震えているモノをじっと見つめている。僕は恥ずかしさのあまり、顔が爆発して死んでしまうんじゃないかと思った。耳の裏まで真っ赤になり、心臓がバクバクと壊れた時計のように鳴り響く。
「……お兄ちゃん」
結衣の声は、驚くほど静かだった。怒っているわけでも、呆れているわけでもない、どこか困惑したような、でも確実に僕を意識したトーン。
「ち、違うんだ、結衣。これは、その……生理現象っていうか、コントロールがきかなくて……っ」
言い訳をしようとするけれど、呼吸が荒くなってしまい、まともな言葉にならない。はぁ、はぁ、と僕の荒い息遣いが、静かな浴室に虚しく響く。
結衣はきゅっと唇を噛み締めると、じっと僕のそこを見つめたまま、今度はゆっくりと手を伸ばした。
彼女の手には、先ほど僕の足を拭くために濡らしておいた、冷たい洗面器の水滴がついたままだった。
その濡れた結衣の指先が、僕のモノの先端に、ほんの少しだけ触れた。
「ひっ……! あ、はぁっ……!」
身体がビクンと激しく跳ね上がった。冷たい水滴の感触と、指先の柔らかさがダイレクトに脳髄を突き刺す。結衣の指が触れた瞬間、僕の先端は、彼女の手についていた水滴でじんわりと濡れ、光を反射して怪しく光った。
「あ、濡れちゃった……」
結衣が小さく呟いた。その声には、少しだけ悪戯っぽい、意地悪な響きが混ざっていた。
彼女は手を引こうとせず、濡れた指先で、僕の先端に溜まった水滴をなぞるように、ゆっくりと円を描いた。
「ねえ、お兄ちゃん。私に見られて、そんな風になっちゃうんだ?」
「や、やめろ……結衣、本当、に……っ、はぁ、はぁ……」
僕は椅子の上で身を捩ったけれど、右足が固定されているため、大きく逃げることもできない。ただ、彼女の手のひらの上で、無防備に下半身を晒し、呼吸を荒くすることしかできなかった。
半分の角度のまま、ドクドクと脈打つ僕のそこは、結衣の手の水分を吸うように、さらに生々しさを増していく。先端からは、水滴なのか、それとも僕の興奮の分泌液なのか分からない透明な雫が、一滴、床のタイルへと滴り落ちた。
「顔、真っ赤だよ? 呼吸、すっごい荒い。……お兄ちゃんって、意外と変態なんだね」
結衣は僕の顔を見上げ、ニヤリと意地悪に微笑んだ。普段の生意気な妹ではなく、僕のすべてを握っている支配者のような、そんな大人の女性の目をしていた。
家族の前で、こんな情けない姿を晒し、しかも弄ばれている。人生最大の恥辱のはずなのに、頭の芯がジーンと痺れて、言葉にできない背徳的な快感が僕の理性をじわじわと侵食していく。
「ほら、早くお風呂済ませないと、お湯冷めちゃうよ」
結衣はそう言うと、最後に僕の先端をツン、と強めに突き、パッと手を離した。
刺激の余韻で、僕の身体はしばらくの間、小刻みに震え続けていた。
結衣はそれ以上何も言わず、残りのテープをテキパキと巻き終えると、
「じゃ、終わったから。ゆっくり入りなよ」
と、何事もなかったかのように立ち上がり、浴室を出て行った。
バタン、とドアが閉まり、再び静寂が戻った浴室で、僕はしばらくの間、激しく上下する胸を抑えながら、へたり込んでいた。
右足のギプスの上の防水テープは、完璧に貼られていた。だけど、僕の股間の「半分の角度」は、結衣が去った後も、彼女の指先が残していった冷たい水滴の感触を覚えたまま、しばらくの間、熱く、硬く、震え続けていた。
あの夜以来、結衣は僕の前で普段通りに振る舞っている。けれど、たまにリビングで目が合うと、彼女は僕の下半身にチラリと視線を落とし、悪戯っぽく微笑むようになった。
壊れた僕の足が治るまでの間、いや、治った後もずっと、僕は妹に対して、絶対に頭が上がらない秘密の主従関係を結ばされてしまったのだ。
このシチュが好きなあなたへ!

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