あの狂乱のデッサン会から、一週間が経とうとしていた。
部室内には、何事もなかったかのような平穏が戻っているように見えた。マキもユキも、手に入れた「生々しいリアリティ」を原稿にぶつけ、一心不乱に作業を進めている。しかし、私とアキトの間にだけは、ガラス膜を隔てたような、奇妙に張り詰めた空気が漂い続けていた。放課後、部室で目が合うたびに、彼は弾かれたように視線を逸らし、首筋まで真っ赤に染めるのだ。
そんなある日の放課後。マキとユキが「印刷所の見学に行く」と言って、早々に下校した。部室に残されたのは、私とアキトの二人きりだった。
梅雨入りの前の、ひどく蒸し暑い午後だった。窓の外からは、運動部の掛け声と、遠くで鳴り響くブラスバンドの音が、ねっとりとした空気を通じて聞こえてくる。
私は机に向かい、トーンの切り屑を片付けていた。沈黙に耐えかねて、カバンをまとめようとしたその時、背後でガタリと椅子が鳴った。
「あの……、先輩」
振り返ると、アキトが立っていた。いつになく真剣な、しかしどこか怯えたような目で私を見つめている。彼の右手には、普段の部活動では使わない、私物のコンパクトデジタルカメラが握られていた。
「どうしたの、アキトくん?」
「お願いが、あります。……僕に、協力してほしいんです」
アキトの声はかすかに震えていたが、その瞳の奥には、一週間前のあの日に見せた、あの狂気じみた熱量が再び灯り始めていた。
「協力って?」
「僕も……、描きたいんです。先輩たちみたいに、圧倒されるような、生々しい絵を。そのためには、やっぱり自分の身体じゃダメなんです。自分のじゃ、角度も限られるし、何より……客観的に見られないから」
アキトは一歩、私に近づいた。カメラを握る指先が白くなっている。
「だから、僕の『それ』を……写真に撮ってほしいんです。色んな角度から、光の当たり方とか、影の落ち方とか、資料として。……先輩に、シャッターを押してほしい」
心臓がドクンと嫌な音を立てた。一週間前の光景が頭をよぎる。あの時、彼は私たち三人の前で自らを晒した。しかし今回は違う。「二人きり」というシチュエーションが、その要求の持つ意味を、まったく別の、より濃密で危険なものへと変質させていた。
「それは……、マキちゃんやユキちゃんに頼んだ方がいいんじゃ……」
「ダメです!」
アキトは強い口調で私の言葉を遮った。
「二人は、もう自分の世界を完成させてる。僕の身体を、ただの『素材』として見てる。でも、先輩は違う……。あの時、先輩だけは、僕そのものを、ちゃんと見ててくれたから」
アキトの言葉は、私の理性の防波堤を容赦なく削り取っていった。確かにあの時、私は絵を描く二人とは違い、一人の男子高校生としての彼の熱量に、ただただ圧倒され、魅了されていた。その自覚が、私に「拒絶」という選択肢を失わせた。
「……分かった。誰も来ない場所にしよう」
私たちは、同好会の部室から少し離れた場所にある、今は使われていない旧写真部の「暗室」へと移動した。
暗室の中は、ひんやりとしていながらも、特有の薬品の匂いと密閉された空気が混ざり合い、息が詰まりそうだった。赤色電球の怪しい光が、コンクリートの壁を赤黒く染めている。
アキトは中央に置かれた古い作業台の前に立ち、カメラを私に手渡した。液晶画面に映る彼の顔は、影になってよく見えないが、激しい呼吸のせいで肩が大きく上下しているのが分かった。
「……じゃあ、撮るよ」
私がカメラを構えると、アキトは頷き、自らの制服のズボンに手をかけた。
ベルトが外され、ジッパーが下りる。その金属音が、狭い暗室内にやけに大きく響いた。続いて、彼が下着をゆっくりと膝のあたりまで押し下げる。
その瞬間、私の目はカメラのファインダー越しではなく、生の視線で、彼の股間に釘付けになった。
一週間前とは、明らかに違っていた。
アキトのモノは、ズボンを下ろしたその瞬間にはすでに、完全な「戦闘態勢」に入っていた。一週間前のような、仮性の皮に包まれた控えめな状態ではない。分厚い皮膚の先端は限界まで引き絞られ、そこから溢れ出た無色透明な分泌液によって、赤黒い先端がじっとりと濡れそぼっていた。
そして何より圧倒されたのは、その方向だった。
彼のモノは、お腹にぴったりと張り付くかのように、ほぼ垂直、真上を向いて猛烈に怒張していた。ドクドクと拍動する血管が浮き出ており、若さゆえの過剰なエネルギーが、そこに集中しているのが一目で分かった。
「アキト、くん……これ……」
「……すいません。ここに来るまで、ずっと考えてたら、もう、抑えられなくて……」
アキトの声は、今にも泣き出しそうなほど震えていた。しかし、その状態とは裏腹に、真上を向いた彼の中心は、いささかも揺らぐことなく、傲然と私を睨みつけているようだった。
「ほら、撮って、ください……。上から、横から……全部、記録して」
私は震える手でカメラを構え、シャッターを切った。
カシャ、という電子音が鳴るたびに、フラッシュの光が暗室の赤闇を白く切り裂く。
液晶画面に映し出されるのは、信じられないほど生々しい「雄」のシンボルだ。先端の濡れた光沢、引っ張られて限界まで薄くなった皮膚の質感、そして真上を向くことで強調される、根元の強靭な肉の盛り上がり。
「少し、角度変えるね……」
私は腰を落とし、アキトのモノを下からのアングルで捉えた。
間近で見るそれは、恐ろしいほどの熱を放っていた。アキトは私が近づくたびに、ビクンと身体を震わせ、さらにその硬度を増していく。先端から滴り落ちた一滴の雫が、彼の太ももを伝って床に落ちた。そのかすかな音さえ、今の私には爆音のように聞こえた。
「アキトくん、自分で……少し皮を、動かしてみて」
私は、自分でも驚くほど冷静な、しかし確実に興奮に満ちた声で指示を出していた。
「こう、ですか……?」
アキトは 濡れた先端に指をかけ、真上を向いたままのそれを、ゆっくりと 弄り始めた。皮が擦れる、クチュ、という湿った音が暗室に響く。
その瞬間、私の中の「オタク少女」としての境界線は完全に消え去り、ただ目の前の淫靡な光景に狂わされる一人の女になっていた。赤黒い光の中で、真上を向いた少年のペニスと、それを貪るように記録する私。
「いいよ、そのまま……動かないで」
何枚も、何枚も、私たちはシャッターを押し続けた。アキトの荒い息遣いが、私の耳元でダイレクトに響く。彼の指の動きが速くなり、真上を向いていたモノが、限界を迎えて激しく脈打ち始めた。
「先輩、僕、もう……!」
「待って、そのまま!」
最後のフラッシュが光った瞬間、アキトの身体が大きくのけ反り、暗室の静寂の中に、激しい液体の弾ける音が響き渡った。
部室に戻ったとき、外はすっかり薄暗くなっていた。
アキトはカメラを大事そうにカバンにしまうと、「ありがとうございました」とだけ言い残し、足早に帰っていった。
一人残された部室で、私は自分の手がまだ微かに震えていることに気づいた。
あの暗室で見た、真上を向いたアキトのモノの、あの狂おしいほどの熱量と濡れた先端の光景。それは、どんな漫画の資料よりも、私の脳裏に深く、消えないタトゥーのように刻み込まれてしまった。
結局、アキトがその後、どんな絵を描いたのかは知らない。
けれど、あの放課後、二人だけの秘密の部屋で共有したあの濃密な空気は、今でも私の創作の衝動を、静かに、しかし激しく突き動かし続けている。

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