八月、お盆。うだるような暑さと、どこまでも続く青い空。
私の記憶の中にある親戚の集まりは、いつも決まって、祖母の古い木造の家と、むせ返るような畳の匂い、そして終わりのない蝉の鳴き声とセットになっている。
私が高校二年生、従兄の彰(あきら)ちゃんが一つ年上の高校三年生だった、あの夏のことは、今でも思い出すたびに耳の裏が熱くなる。
彰ちゃんは、小さい頃から毎年のように田舎の祖母の家で一緒に遊んできた、一番歳の近い従兄だった。昔は泥だらけになってクワガタを捕まえたり、川に飛び込んだりして一緒に馬鹿なことばかりしていたけれど、お互いに高校生にもなると、どこか微妙な距離感が生まれていた。久しぶりに会った彼は、いつの間にか私よりもずっと背が高くなり、声も低くなっていて、幼馴染のような気安さの中に、どうしたって「男の子」を意識せざるを得ない雰囲気を纏うようになっていたのだ。
その年の盆休みは、親戚一同が十人以上も集まり、家の中は足の踏み場もないほどの大賑わいだった。
夜になると、子ども部屋として使われていた二階の大きな和室に、いとこ達六人で布団を隙間なく並べ、いわゆる「雑魚寝」をすることになった。
エアコンの効きが悪い古い部屋で、天井の大きな扇風機が首を振りながら、ぬるい風をかき回している。
深夜の一時を回る頃には、夜遅くまでゲームや恋バナで盛り上がっていた他のいとこ達も、一人、また一人と眠りに落ちていき、部屋には静かな寝息だけが響くようになった。
私は元々寝つきが悪い方で、昼間の暑さの残る畳の熱気と、すぐ隣から聞こえる誰かの寝息のせいで、すっかり目が冴えてしまっていた。
寝返りを打ち、なんとなく横を向いた。
私のすぐ隣の布団で寝ていたのが、彰ちゃんだった。
彼は仰向けになり、暑いのか掛け布団を足元に蹴飛ばした状態で眠っていた。そして、無意識の癖なのだろう、両方の膝をぽんと「山」のように高く立てた状態で、気持ちよさそうに深い眠りについていた。
彼はその夜、実家に忘れてきたとかで、おじさんが昔着ていたという古くてサイズがブカブカの、薄手のトランクス風のハーフパンツを穿かされていた。
膝を立てたことで、そのブカブカの短パンの裾が、重力に従ってずるずると太ももの付け根の方へと滑り落ちていた。
そして、私の位置からは、ちょうど彼の立てた膝の真下――短パンの広すぎる裾の「隙間」が、ぽっかりと暗い洞窟のように口を開けているのが、真正面に見える形になっていたのだ。
最初は、本当に何気なく視線を向けただけだった。
部屋を照らすのは、常夜灯の薄暗いオレンジ色の光と、窓から差し込むかすかな月光だけ。
でも、人間の目というのは不思議なもので、暗闇に慣れてくると、ほんの少しの光の明暗でも、その形を信じられないほど鮮明に捉えてしまう。
裾の隙間の、その奥。
彰ちゃんの、男の子らしい少し筋張った太ももの肌のさらに奥に、明らかに周りの影とは違う、生々しい「質量」を持った何かが、そこにあった。
「……っ、」
私は心臓が跳ね上がるのを自覚した。
息をすることすら忘れて、身体が完全に硬直する。
それは、水着の隙間から見えてしまうような、生易しいレベルのものじゃなかった。完全に無防備で、一切の飾り気のない、男の人の本質的な「モノ」だった。薄暗い光の中で、それは驚くほど生々しく、そしてどこか圧倒的な存在感を放って、彼の股の間に横たわっていた。
目を逸らさなきゃいけない。絶対に見てはいけない。
頭の中の理性は、狂ったように私に警告を発していた。だって、相手はいとこの彰ちゃんで、明日も明後日も、普通の顔をして一緒にご飯を食べなきゃいけない相手なのだ。もしこれがバレたら、二人の関係は完全に終わる。
それなのに、私の視線は、磁石に吸い寄せられる鉄屑のように、そのブカブカの隙間からどうしても離れることができなかった。
いつも優しく笑って、私のわがままを聞いてくれる彰ちゃん。
でも、今私の目の前にあるのは、私の知らない、完全に「大人の男」としての彼の身体の一部だった。
彼の規則正しい、深い胸の上下に合わせて、その境界線にあるものも、かすかに動いているように見えた。そのディテールが、網膜を通じて私の脳裏に容赦なく焼き付いていく。
ドク、ドク、ドク、と、自分の肋骨が鳴っているんじゃないかと思うほどの激しい鼓動が、静かな大部屋に響き渡るような気がして怖かった。
全身の血が頭に上り、顔が燃えるように熱い。冷房の風が当たっているはずなのに、背中を冷たい汗が伝っていくのが分かった。
どれくらいの時間、私はそこを凝視してしまっていたのだろう。
時間にして数十秒、あるいは数分だったのかもしれない。私にとっては、永遠のようにも感じられる息詰まる時間だった。
不意に、彰ちゃんが「ん……」と小さく声を漏らし、寝返りを打とうと身体を動かした。
「ひゃん、」
声にならない悲鳴を上げながら、私は弾かれたように寝返りを打ち、彼に背を向けた。
心臓が口から飛び出そうだった。布団を頭まですっぽりと被り、きつく目を閉じる。暗闇の視界の裏側に、さっき目撃した「彼のすべて」が、鮮烈な残像となってチカチカと浮かび上がっていた。
結局、私はその夜、一睡もすることができなかった。
翌朝、台所から漂うお味噌汁の匂いと、蝉の合唱で目が覚めた――というか、起き上がった。
居間に向かうと、そこには既に起きて、寝癖をつけたまま麦茶を飲んでいる彰ちゃんがいた。
「お、おはよ、」
私が緊張のあまり、声を引き攣らせながら挨拶すると、彼はいつも通りの、少し眠そうな爽やかな笑顔で「おぅ、おはよ。お前、なんか目の下クマできてんぞ? 寝れなかった?」と言ってきた。
彼は何も知らない。自分が昨夜、どんな姿を晒していたのかも、私がそれをどんな目で見ていたのかも。
「……う、うん。ちょっと暑くてね」
私は彼の顔をまともに見ることができず、視線を斜め下の畳に落としたまま、逃げるように洗面所へ向かった。鏡に映った自分の顔は、思い出すだけでまたほんのりと赤くなっていた。
あの夏の日から、もう何年も経った。
今ではお互いに社会人になり、親戚の集まりで会っても、お酒を飲みながら「昔はよく川で遊んだよね」なんて、普通の従兄妹としての会話を楽しんでいる。
でも、彰ちゃんが何気なく足を組んだり、笑ったりする姿を見るたびに、私の脳裏には、あの夏の夜、古いおじさんの短パンの隙間から覗いていた、薄暗いオレンジ色の光の中の「秘密」が、一瞬だけ鮮烈に蘇るのだ。
それは、親戚のお兄ちゃんが、一瞬だけ「一人の男」に見えてしまった、私だけの、一生誰にも言えない秘密の思い出だ。

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