あの生ぬるい湯気と、消毒液が混ざり合った独特の匂いを嗅ぐと、今でも胸の奥が焼き付くように熱くなる。あれは僕がまだ十四歳、中学二年生の初夏のことだった。
部活動の最中に派手な転倒をし、右足の骨を複雑骨折した。ボルトを埋め込む手術は大掛かりなもので、術後は腰から下を厳重に固定され、自力での移動はおろか、寝返りを打つことすらままならない絶対安静の生活が始まった。
入院して二週間が経った頃、ようやく医師から「シャワー浴」の許可が下りた。それまで毎朝、看護師に濡れタオルで体を拭いてもらうだけの、何とも言えない不快感から解放される。その報せを聞いた時は、ただ純粋に嬉しかった。
しかし、当時の僕は、自分が「思春期の真っ只中にいる男子中学生」であるという事実と、それが医療の現場においてどれほど無力で、剥き出しの存在になるかという現実を、全く理解していなかった。
「はーい、お待たせ。お風呂行こうね」
現れたのは、病棟でもベテランの域に入る頼もしい主任看護師の坂上さんと、まだ二十代半ばの朗らかな若手看護師、木村さんだった。ここまではいい。問題は、その背後にずらりと並んだ、見慣れない白いエプロン姿の集団だった。
「ちょうど今、看護学校の実習期間中でね。今日はみんなでお手伝いと、お勉強をさせてもらいます」
坂上さんが満面の笑みで紹介した。そこにいたのは、明らかに僕よりも少し年上、おそらく二十歳前後の、若くて眩しいお姉さんたちが五人もいた。
総勢、七人。全員が女性である。
車椅子に移される段階で、僕の心臓はドラムのように脈打ち始めていた。これから僕は、彼女たちの前で完全に「無」にならなければならないのだ。
浴室は、一般の家庭用とは比べ物にならないほど広く、中央に大がかりな介助用のリクライニング式シャワーチェアが鎮座していた。タイル張りの床は濡れていて、天井からは容赦のない白い蛍光灯の光が降り注いでいる。影を作る隙間なんて、どこにもなかった。
「じゃあ、服脱ごうか。寒くない?」
木村さんが手際よく僕の病衣のボタンを外していく。五人の実習生たちは、手帳を片手に、真剣そのものの眼差しで僕を凝視していた。彼女たちにとっては、これが「運動器疾患を持つ患者の入浴介助」という神聖なカリキュラムの一環なのだ。不純な目など、そこには一滴も含まれていない。だからこそ、余計に逃げ場がなかった。
上半身が露わになり、ついに最後の布地が引き下げられた瞬間、僕は思わず身を固くした。
「はい、お湯かけるよ。熱かったら言ってね」
実習生の一人、少し髪を後ろで結んだ真面目そうな人が、緊張した手つきでシャワーヘッドを持った。
「あ、温かいです……」
蚊の鳴くような声しか出ない。
ここからの時間は、僕にとって永遠のようであり、同時にあまりにも濃密なパニックの時間だった。
「じゃあ、まず体幹から洗っていきます。皮膚の擦れに注意してね」
坂上さんの指示が飛ぶ。実習生たちが二人一組になり、泡立てたスポンジを持って僕の体に触れた。
「失礼します」
小さな声と共に、柔らかい泡が僕の肩や胸、背中を滑っていく。彼女たちの手は驚くほど優しく、そして温かかった。しかし、その温もりと、至近距離から一斉に向けられる「見られている」という強い視線が、僕の少年としての防衛本能を激しく逆撫でする。
目の前には、真剣に僕の肌の観察を行う女子大生たちの顔がある。距離にして数十センチ。彼女たちが呼吸を整えるたびに、かすかに石鹸とは違う、女の子特有の甘い香りが湯気の中に混じるのが分かった。
(お願いだから、何も起こらないでくれ)
心の中で念仏のように繰り返した。必死で頭の中で全く関係のないことを考え始めた。数学の因数分解の公式。昨日読んだ漫画の展開。あらゆる非性的な事象を脳内に並べ立て、必死で理性を保とうとした。
しかし、身体は残酷だった。
女性たちの手によって皮膚に直接「触れられる」という生々しい感覚と、遮るもののない空間で自分という存在を隅々まで「見つめられている」という過剰な意識が、僕の意志を簡単に裏切った。下腹部に熱い血液が急激に集まっていくのが分かった。
(嘘だろ……やめてくれ……!)
最悪の事態だった。十四歳の未熟な身体は、制御不能な生理反応をあっさりと起こしてしまった。隠すためのタオルも、今はまだ手元にない。すべてが剥き出しのまま、白い蛍光灯の下で主張を始めてしまったのだ。
頭の中が真っ白になり、全身から冷や汗が吹き出た。羞恥心と絶望で、そのまま心臓が止まってしまえばいいと本気で願った。
一瞬、浴室内の空気がわずかに張り詰めたような気がした。僕を囲んでいた実習生たちの視線が、一斉にその一点に集まり、そして弾かれたように泳いだのを、僕は見逃さなかった。彼女たちの頬が、湯気のせいだけではなく、みるみるうちに赤く染まっていく。誰も声を出せなかった。
その気まずすぎる沈黙を破ったのは、ベテランの坂上さんだった。
「はい、じゃあ次は下肢ね。ギプスを濡らさないようにビニールをしっかり押さえて。みんな、足の指の間もしっかり見るのよ」
坂上さんは何事もなかったかのように、しかし実習生たちの視線を僕の局所から外させるように、テキパキと指示を出した。そして、すっと大きなバスタオルを僕の腰元にかけ、目隠しを作ってくれた。
「男の子なんだから、当たり前のこと。気にしなくていいからね」
坂上さんが僕の耳元で、実習生たちには聞こえないような小さな声で、ぽつりと言った。
その言葉に救われたような、あるいは余計に情けなくなったような気持ちのまま、後半の時間は過ぎていった。実習生たちは、あえて僕の顔や下半身から完全に視線を外し、手際よく、かつ丁寧に僕の足や背中を洗い上げてくれた。彼女たちのプロとしてのプライドと、僕に対する最大限の気遣いが、その丁寧な手の動きから伝わってきた。
すべての工程が終わり、シャワーできれいに泡を流された時、僕は生まれて初めて「魂まで洗い流される」という感覚を味わった。
病室に戻り、一人になったベッドの上で、僕は布団を頭から被ってシーツをきつく握りしめた。
全身が清潔になった爽快感などどこへやら、人生最大級の羞恥心と絶望感が、胸の中でぐちゃぐちゃに渦巻いていた。あの時、彼女たちの目に映った自分の姿を思い出すたびに、布団の中で「うわぁぁ」と声を出さずに叫んだ。
あれから長い年月が経った。今では僕も立派な大人になり、病院で少々肌を露出することくらい何とも思わなくなった。しかし、あの初夏の日の、真っ白な湯気の中で感じた「触れられる恐怖」と「見られる羞恥」、そして制御できなかった自分の身体の記憶だけは、今でも鮮明に思い出すことができる。
大人の階段を、あまりにも手荒く、そして劇的な形で登らされた、僕の少年期の忘れられない一幕だ。
看護師や研修生に見られながら入浴介助を受けて
男性目線
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