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身体測定で間違えて全裸で女子の前に

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あの生ぬるい、ワックスの匂いとアルコール消毒液の混ざった独特の空気感を思い出すたび、僕の胃の奥は今でもきゅっと縮こまる。

高校二年の春。それは思春期の真っ只中であり、自意識という名の歪んだ鏡に誰もが四苦八苦していた時期だ。男子校なら笑い話で済んだのかもしれない。だが、僕の通っていた高校は、一応は男女共学の、それもごく平凡な地方の進学校だった。

その日は、全校一斉の身体測定の日だった。
体育館はベニヤ板と薄い暗幕、そして気休め程度のパーテーションによって中央から真っ二つに区切られ、右側が男子、左側が女子のエリアとして割り当てられていた。

「おい、次、早く並べよ」

体育教師のドスの効いた声が響く。男子たちは、下着一枚の心許ない姿で、身長計や体重計の前に並んでいた。当時の僕は、クラスの中でも特に目立たない、教室の隅で小説を読んでいるようなタイプの人間だった。体型も至って凡庸。取り立てて筋肉質でもなければ、太っているわけでもない。ただ、極度の人見知りと、自分の身体を他人に晒すことへの強い羞恥心を持っていた。

だからこそ、僕はできるだけ「その他大勢」に紛れ込みたかったのだ。誰の記憶にも残らないよう、素早く測定を終え、素早く制服を着直して教室に戻る。それが僕の完璧な作戦のはずだった。

しかし、運命の歯車というのは、往々にして最もくだらない理由で狂い出す。

僕の直前で、視力検査の機械に不具合が生じた。Cの向きを答えるだけの簡単な機械が、なぜか過剰に発熱してフリーズしたのだ。教師たちが「あーでもない、こーでもない」と機械を叩いている間、僕の前に並んでいた男子たちは、別の列へと適当に分散させられていった。

「おい、お前はここで待ってろ。すぐ直るから」

体育教師にそう指図され、僕は一人、ぽつんと取り残された。周りを見渡すと、いつの間にか男子の列は完全に途切れていた。さっきまであれほど騒がしかった同級生たちは、すでに測定を終え、そそくさと体育館の出口へと向かっている。

静まり返る男子エリア。
そしてその瞬間、僕の背後にある「境界線」の向こう側から、信じられないほど鮮明な女子たちの話し声が聞こえてきた。

「えー、また体重増えてるんだけど」
「ウソ、全然細いじゃん」

薄いパーテーション一枚を隔てた向こう側は、まだ測定の真っ最中だったのだ。男子は要領よく早く終わるが、女子は髪の毛を結び直したり、測定値に一喜一憂したりする分、時間がかかる。

嫌な汗が背中を伝った。
早く終わらせてくれ。心の中でそう念じ続けていた時、ようやく教師が「よし、直った。測るぞ」と言った。

身長、体重、胸囲、そして視力。
急かされるようにして全ての項目を終えた時、僕は完全に安堵していた。「これで終わった」と。その安心感が、僕の注意力を致命的なまでに奪い去ってしまった。

「次、内科検診な。あっちのテントの中」

教師が指差したのは、体育館の最奥に設置された臨時の医療用テントだった。中には学校医の老医師が待機している。

通常、内科検診は上半身裸で行われる。だが、僕の頭はすでに「早く制服を着て教室に戻りたい」という思考で支配されていた。完全にパニックに近い状態だった僕は、何をどう勘違いしたのか、「内科検診=すべてを脱いで検査するもの」という、今考えればあり得ない被害妄想的な誤認を起こしてしまったのだ。あるいは、早く解放されたい一心で、思考のプロセスがショートしていたのかもしれない。

テントの入り口に用意された脱衣スペース(といっても、ただの小さな衝立の裏だ)に滑り込んだ僕は、あろうことか、身に付けていた唯一の衣類である下着まで、すべてを脱ぎ捨ててしまった。

完全に、一物の遮りもない全裸。

その状態で、僕はテントの幕をめくって中に入った。

医者の驚愕した顔は、今でも忘れられない。老医師は聴診器を握ったまま固まり、隣にいた保健室の先生は、一瞬だけあからさまに目を見開いた後、すぐに視線を天井へと逸らした。

「……君、下は脱がなくていいんだよ」

医者の、ひどく冷静で、どこか哀れみを含んだ声が狭いテント内に響いた。

頭が真っ白になる、というのは、文字通りの現象だった。視界の端がチカチカと明滅し、全身の血の気が引いていくのが分かった。自分の犯した信じられないミスを理解した瞬間、僕は一言も発することができず、ただロボットのようなぎこちない動きで、バックステップを踏むようにテントを飛び出した。

一刻も早く、あの衝立の裏に戻らなければならない。
自分の下着を回収し、身に纏わなければならない。

しかし、極限状態の人間というのは、空間把握能力をも失うらしい。
僕が飛び出したのは、さっき入ってきたはずの「男子側の脱衣スペース」ではなかった。

体育館の構造、そして僕の混乱した方向感覚が導き出したのは、テントの裏手――すなわち、男子エリアと女子エリアを隔てるパーテーションの、ちょうど死角になっているはずの「隙間」だった。

そこは、わずか15センチメートルほどの隙間。
だが、その先は遮るもののない、女子たちの待機列の真っ正面だった。

「キャッ」というような、短い悲鳴すら上がらなかった。
あまりの非現実的な光景に、そこにいたクラスの女子数人は、完全にフリーズしていた。

僕の視界に入ってきたのは、出席番号が近いためにいつも授業で机を並べている佐藤さん、クラスの学級委員長である高橋さん、そして、僕が密かに片思いをしていた、バレー部のエースである河村さんの姿だった。

彼女たちは、体操服姿で床に座り、お喋りをしていた。その視線が、一斉に僕へと注がれる。
遮るものは何もない。春のうららかな木漏れ日が、体育館の高窓から差し込み、僕の無防備極まりない全身を、残酷なまでに鮮明に照らし出していた。

時間にして、おそらく2秒か3秒のことだったのだろう。
だが、僕にとっては、宇宙の始まりから終わりまでをすべて見届けさせられているかのような、無限の永劫に感じられた。

河村さんと目が合った。
彼女の大きな瞳が、信じられないものを見るかのように見開かれ、その視線が、僕の顔から、胸、そして中央へと、ゆっくりと、しかし確実に落ちていくのが分かった。彼女の頬が、見る見るうちに朱に染まっていく。

「あ」

僕の口から漏れたのは、情けないほど小さな、空気の抜けるような音だけだった。

次の瞬間、僕は野生の獣のような俊敏さで身を翻し、本来の男子エリアへと滑り込んだ。パンツを履き、ズボンを穿き、カッターシャツのボタンを掛け違えながらも猛スピードで留める。その間の記憶は、あまりに必死すぎて、断片的な映像しか残っていない。

心臓が、肋骨を突き破らんばかりに脈打っていた。耳の奥で、ドクドクと不快な重低音が鳴り響いている。衣服という名の「鎧」をすべて身に付けた時、ようやく僕は、自分がまだ生きていることを実感した。

その後、どうやって教室に戻ったのかは覚えていない。

ただ救いだったのは、彼女たちがそれを「事件」にしなかったことだ。
もし彼女たちが職員室に駆け込んで「変質者がいる」と騒いでいたら、僕の高校生活、いや、人生そのものが終わっていただろう。彼女たちは、僕のあの時の、この世の終わりまがいのアホな表情を見て、これが悪意ある露出狂の犯行ではなく、ただの哀れで、致命的な「極限の勘違い」であることを察してくれたのだと思う。

翌日からの学校生活は、まさに生きた心地がしなかった。
教室で佐藤さんや高橋さんとすれ違うたび、僕は心の中で激しく平伏した。彼女たちは、僕と目が合うと、一瞬だけ気まずそうに視線を逸らし、それ以上は何のリアクションも取らなかった。触れてはいけない、哀れな生き物を見るかのような、静かなゾーニングだった。

そして、河村さん。
彼女は、それまで僕が廊下ですれ違う時にたまにくれていた、小さな会釈をしなくなった。ただ、僕が教室の窓際で本を読んでいる時、ふと視線を感じて振り返ると、彼女が複雑な、どこか同情と困惑の入り混じった目で僕を見つめていることがあった。その視線に気づくと、彼女は慌てて友達との会話に戻るのだった。

あれから長い年月が経った。
僕もそれなりの大人になり、社会の荒波に揉まれ、恥ずかしい経験もそれなりに積んできた。

しかし、あの春の日の、体育館の冷たい床の感触と、15センチメートルの隙間から差し込んだ光、そして僕のすべてを目撃した彼女たちの、あの凍りついた視線だけは、今でも僕の記憶の最も深い場所に、鮮烈な思い出として残り続けている。

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