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親戚の男の子と実家のお風呂で

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実家を離れて随分と経つけれど、実家のあの、少し古びたタイルの浴室の匂いは、今でも雨の日の夕方なんかにふと思い出すことがある。酢酸の効いたお風呂用洗剤の匂いと、独特の湿った木の香り。

あれは私が中学生で、下の子たちがまだ小学生だった頃の、ある夏の終わりのこと。

親戚一同が私の家に集まると、決まってお風呂は「子供たちみんなで入ってきなさい」という大雑把なルールで運用されていた。当時の私たちにとって、それはごく自然な決まり事だった。私と、私の妹、そしてもう一人の女の子の従姉妹。そこに、同い年か少し年下くらいの、男の子の従兄弟が一人。

「ほら、あんたたち、早く入りなさい。お湯が冷めるよ」

おばさんたちに背中を押されるようにして、私たちは狭い脱衣所に押し込まれた。
女の子三人で賑やかに服を脱ぎ、プラスチックのカゴに放り込んでいく。その傍らで、彼は少し所在なさげに、壁を向いて背中を丸めながら、不器用にシャツのボタンを外していた。

その時の彼の背中が、なんだか妙に小さく、それでいて少しだけ、これまでとは違う「異物」のような雰囲気を纏い始めていたことに、私は薄々気づいていたのだと思う。

「お先に失礼します!」

妹たちが元気よくお風呂の引き戸を開けると、真っ白な湯気が脱衣所に溢れ出してきた。
私たちは次々と浴室へ滑り込む。続いて入ってきた彼は、いつもなら真っ先に湯船に飛び込むはずなのに、その日はなぜか、入り口のすぐ近くで、所在なさげにちんまりとしゃがみ込んでいた。

「どうしたの? 早くお湯かぶりなよ、寒いじゃん」

従姉妹の女の子が屈託のない声で彼に声をかける。
彼は「うん、分かってる」とだけ小さく口をモゴモゴさせて、目の前の洗面器の水をじっと見つめていた。その耳の後ろが、お風呂の熱気のせいだけではない、妙に不自然な赤さに染まっているのを、私はシャンプーの泡を流しながら、鏡越しにそっと見つめていた。

女の子三人での入浴は、とにかく賑やかだ。
今日学校であったこと、新しく買った文房具のこと、好きなアイドルのこと。狭い浴室のなかに、甲高くて楽しげな声が反響する。

私たちは、自分たちの身体が少しずつ、ふくよかに、そして大人びたラインへと変化しつつあることに、まだどこか無頓着だった。濡れて肌に張り付く髪、ほんのりと丸みを帯び始めた胸の膨らみ、引き締まった太もも。それを隠そうともせず、お互いに湯水を掛け合って笑っていた。

その輪の少し外側で、彼は完全に固まっていた。

洗い場の隅っこで、膝を抱えるようにして座り込んでいる。その視線は、私たちの身体に行きそうになっては、慌てて天井の換気扇や、床のタイルの目地へと無理やり逸らされていた。その必死な様子が、なんだかとても滑稽で、同時に、少しだけ可哀想にも思えた。

(あぁ、この子、私たちのこと『女の子』として意識してるんだ)

私は、胸の奥が少しだけチクリとするような、奇妙な高揚感を覚えた。
彼はもう、ただ一緒に泥遊びをしていた「男の子の従兄弟」ではないのだ。私たちの剥き出しの肌を見て、何かを強烈に感じてしまう、一人の「雄」になりかけている。

その気づきは、中学生の私にとって、少し背伸びをしたくなるような、意地悪な感情を呼び起こした。

「ねえ、お湯加減どう? 一緒に入ろうよ」

私はわざと、いつもより少しだけ声を甘くして、湯船の中から彼を呼んだ。
湯気の中で、私の肩や鎖骨が水面に白く浮かんでいる。

彼はびくりと肩を跳ね上げると、意を決したように立ち上がった。
「……入るよ」
その声は、少し掠れていて、男の子特有の、声変わりが始まりかけた不安定な低さを持っていた。

彼が湯船に近づいてくる。その瞬間、私は見てしまった。

彼の細いお腹の下、いつもなら静かに垂れ下がっているはずの「それ」が、明らかに不自然な主張を始めていた。硬く、そして上を向いて、今にもはち切れんばかりに張り詰めている。
小学生の妹たちは、おもちゃのボートを浮かべるのに夢中で、彼のその変化には全く気づいていない。

でも、私は気づいていた。そして、彼自身も、自分の身体が制御不能な暴走を起こしていることに、完全に恐怖しているのが分かった。

彼は慌てて、お腹を隠すように前屈みになりながら、滑り込むように湯船へと体を沈めた。
「あつっ……」
小さな声を漏らしながら、彼は湯船の最も深い場所へ、自分の下半身を完全に隠し通そうと必死になっていた。

お湯のなかは、外からは見えない。
けれど、狭い浴槽のなかだ。お湯の対流や、微かな水圧の変化で、彼がどれほど身体を硬直させているかが、私には手に取るように伝わってきた。

彼は私の正面、少し離れた場所に座った。
お湯のなかで、彼の膝が私のふくよかになり始めた太ももに、ほんの一瞬だけ、かすかに触れた。

その瞬間、彼の顔が一気に赤く染まった。
湯気で見誤るはずのない、トマトのような真っ赤な顔。彼は慌てて足を引っこめたけれど、その拍子にお湯が大きく揺れ、水面の下で、彼のあの硬くなった部分が、私の足の甲のあたりを、ぬるりと、掠めるように触れていった気がした。

私は、息が止まりそうになった。

(信じられない。この子、本当にこんなところで……)

あきれたような、でも、それ以上に、私の胸の奥を激しく揺さぶるような、甘痒い衝動が突き上げてきた。
私の身体を見て、私と触れたことで、この男の子の身体はこんなにも狂わされている。その事実が、私の中の「女性」としての本能を、これまでにないほど強く刺激した。

妹たちが「お姉ちゃん、顔赤いよ? のぼせちゃった?」と顔を覗き込んできた。
「あ、うん。ちょっとお湯が熱いかもね」
私は何事もないように笑ってみせたけれど、視線は湯船の底、彼のいる場所から外せなかった。

彼はもう、生きた心地がしていなかったのだろう。
両手で膝をきつく抱え込み、ただひたすら、この時間が過ぎ去るのを耐え忍ぶように、目を固く閉じていた。その長い睫毛が、細かく震えている。私に見られているかもしれないという恐怖と、それでも抑えきれない肉体の興奮との間で、彼は引き裂かれそうになっているのが分かった。

お姉さんぶって、からかってやろうかとも思った。
『ねえ、どうしてそんなに顔が赤いの?』って。
でも、そんなことをしたら、この繊細な男の子のガラスのようなプライドは、粉々に砕け散ってしまうだろう。それに、私自身も、彼のその「秘密」を、この静かな湯気の中で、二人だけの秘密として共有していたいという、どこか共犯者のような気持ちになっていたのだ。

「私、そろそろ出るね」

私はそう言って、彼を苦しみから解放してあげることにした。
お湯から上がるとき、わざと彼の目の前で、水滴の滴る身体を隠すことなく、ゆっくりと立ち上がった。
ファインダー越しに世界を見るように、彼の視線が、私の濡れた太ももから腰のラインへと、吸い寄せられるように動いたのを、私は見逃さなかった。

背後で、彼が小さく、深く、溜息をつくような音が、お湯の音に混じって聞こえた。

脱衣所でバスタオルに包まれると、火照った肌に扇風機の風が心地よく当たった。
少し遅れて、彼が浴衣姿で脱衣所から出てきた。
その顔はまだ少し赤かったけれど、下半身はすっかりいつもの大人しい状態に戻っているようだった。彼は私の目を一切見ようとせず、そそくさと居間のほうへ走っていった。

その日の夜、親戚の大人たちがビールを飲みながら談笑するなか、彼は部屋の隅で、ずっと漫画を読んでいるフリをしていた。
私が彼の近くを通るたびに、彼の身体がビクッと微かに強張るのが、なんだかとても愛おしく、そして可笑しかった。

あれから、もう何年も、何十年も経った。

今では彼も立派な大人の男性になり、自分の家庭を持って、滅多に会うこともなくなってしまった。お正月の集まりなんかでたまに顔を合わせても、お互い当時のことなんて、おくびにも出さない。彼はきっと、あの日の出来事を「人生最大の黒歴史」として、記憶の奥深くに封印しているのだろう。

けれど、私にとっては違う。
あの夏の日の、湯気で白く霞んだ古い浴室。
私という存在に狂わされ、必死に下半身を硬くして耐えていた少年の姿。
それは、私が自分自身のなかに「男を狂わせるかもしれない性」というものを初めて意識した、ちょっぴり残酷で、そしてどうしようもなく甘美な、大切な思い出のひとコマなのだ。


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